PLAやABSで造形を行う場合、サイズが小さいものはシワなしPITをたっぷりとガラス台座に塗り込んでおく事で大体問題なく造形出来るが、サイズが大きいものを出力する場合、特にABS素材では造形中に素材が冷えて伸縮する事による反りが発生し、台座から剥がれたり層間に隙間が出来たり角が潰れたりと失敗に繋がる。
造形中の反りを防止するためには、台座にヒートベッド(heated bed)を取り付ける。ヒートベッドは造形中に台座を高温に保つ、ヒーターの板である。PLAで60度、ABSで100度程度に設定するらしい。100度と言うと水が沸騰する温度なので、かなりの高温だ。
購入したデルタ型3Dプリンターにはヒートベッドが付いていないため、ヒートベッドを購入する必要があるが、ヒートベッド以外にも揃えなくてはならないものがある。筆者がヒートベッド取り付けのために購入したのは
- サーミスタ
- カプトンテープ
- 高容量ACアダプター
- DCジャック
- ネジ
- コルクボード等の耐熱マット
- 円形アルミ製ヒートベッド
- 耐熱円形ガラス
サーミスタはホットエンド用と同じもの。ヒートベッドの温度測定用に使用する。カプトンテープは耐熱性等に優れた少し高いけど優れた性能のテープ。サーミスタをヒートベッドに貼り付ける際等に使用する。(Amazonでカプトンテープで検索すると出てくる安価な絶縁耐熱テープは品質の悪いものもある様なので注意)
ヒートベッドは単体でかなりの電力を消費するため、プリンターに付属してきたACアダプター12V6Aでは電力不足になる。ATX電源ユニットであれば高容量のものも多数あるが、出来ればACアダプターでスマートにしておきたい。
しかし、12Vで10A以上のACアダプターとなると国内ではなかなか見つからない。中華は来るまで時間がかかるし、高容量となると安全面でも怖い。楽天で12V12AのLEDテープ用のものを見つけ注文したが、「すみません、手違いで在庫切れとなりました」のメールが(゚Д゚#)
XBox 360用203W 12V16.5Aの中古ACアダプターを購入する事に。容量が大きく安価で冷却ファン内蔵で保護回路もしっかりしていてMicrosoft製なのでそこそこ安心。口が特殊なので、Slim用変換アダプターも購入。
ヒートベッドはデルタ製プリンター購入直後に発注していたが、届いてびっくり。
いつもの黄色テープ巻きの梱包を開けてみると・・・
円形頼んだのに四角やん!(゚Д゚##)
どうがんばってもデルタ型プリンターには納まらなかったので、文句言って再発送してもらい入手まで二ヶ月ぐらいかかってしまった。
AliExpressで注文すると商品間違いや仕様が異なる製品がたまーにあるが、大体の場合は商品返送し返金か、代替製品を送ってくれる。が、郵便局まで行って国際貨物を送るのはかなり面倒である(Invoice等の書面も書かされる)。
デルタ型3Dプリンターは台座の部分に制御基板を設置しているため、ヒートベッドをそのまま置くとフレームも熱くなるし制御基板も熱暴走したりケーブルも溶けてしまうかもしれない。保護するためにコルクボードをダイソーで購入。後取り付け様にホームセンターでネジも購入。ここ数か月でネジに一体幾ら使ってるんだ。
メンテが楽な様にヒートベッドの上にガラス台座を重ねるが、付属のガラス板は耐熱ガラスには見えない。IHの焦げ防止用の直径20センチ円形耐熱ガラスプレートを購入。ラジエントヒーター対応なので熱も通すし耐熱温度700度、温度差600度対応で安心。直径20センチがなかなか見つからず楽天でなんとか見つけた(最後の在庫だった)。24センチや15センチは近くのホームセンターでも見かけるのだが。
さて、材料が揃った所で取り付けて行く。まずはACアダプター。結構でかい上、コネクター口もでかい。ケーブルもごついのでスリム変換アダプターを買っておいて正解だった。
スリム変換アダプターの片側を切り落とし、ケーブルを剥く。赤と黒ケーブルが12Vのプラスとマイナスで、緑と白が5Vと電源オンのためのシグナル。赤と黒のケーブルを5.1mmのジャックに取り付け、緑と白は直結させておく。緑と白を直結させる事で、XBOXのACアダプターが通電状態となる。
ACアダプターの電源を挿すとアダプターのLEDがオレンジ点灯(待機)となり、変換アダプターを挿すと緑点灯(通電)となるが、最初変換アダプターを挿すと赤点滅となった。調べてみると、ジャック内で赤と黒がショートしてしまっていた。危ない危ない。XBOXのアダプターはちゃんと保護が効いている様で助かった。中華製アダプターなら燃えていたかもしれない。LED上部からファン冷却の風も出ており、なかなか優秀なアダプターである。本体もケーブルもごついが。
RAMPSシールドの場合、電源用ネジターミナルが2つあり、下が12V5Aでモーターやホットエンド駆動用、上が12V11Aでヒートベッド用電源となっている。両方を一つの電源で賄う場合はひとまとめにする。ケーブルを加工し、AC口→11A→5Aと繋ぐ。これで電源はOK。※2015/7/16追記 電源周り溶けました。電源配線はしっかりやりましょう。
ヒートベッドの熱と電源の熱で制御基板が熱くなりそうなので、基板冷却用のファンも追加。RAMPSシールドに12VのAUX電源がありホットエンドの常時冷却に使用しているので、二股ケーブルを作成しホットエンド用と基板用ファンに給電する。
基板用ファンは適当にビーム取り付けパーツを作成。自作パーツが上手く出来る様になってくるとだんだん楽しくなってくる。
データはThingiverseに上げている。
http://www.thingiverse.com/thing:911637
フィラメントは安価クリアタイプのABS。安物なので半透明だが、なかなかシャープな造形が出来る。
3Dプリンター用ABSフィラメント 【1.75mm】【1kg】【カラー選択可】 (透明/クリア)
コルクボードをヒートベッドの形に切り抜き、ヒートベッドのケーブルの位置をくり抜く。
端をカプトンテープで留め、サーミスタを適当に挟んでくり抜いたコルクを戻して封印。
ヒートベッドのケーブルをD8に接続し、サーミスタのケーブルをホットエンド用サーミスタ隣のT1に接続する。
ヒートベッドは直径22cm、ガラス台座は20cmで固定に工夫がいるが、こんな感じのパーツを作成し手回しネジでガラス台座は簡単に外せるようにした。滑り止め用に150度まで対応できるエラストマーシートとかいうゴム素材を使用。ホームセンターで数百円。
ヒートベッド固定とガラス台座固定の二段階になっており、ガラス台座だけ簡単に外せる様にしている。
データはThingiverseに。
http://www.thingiverse.com/thing:911643
ヒートベッドを有効にするため、Marlinのファームウェアを修正する。Configuration.hのTEMP_SENSOR_BEDを修正する。100kΩのサーミスタの場合、5にする。
#define TEMP_SENSOR_BED 5
ビルド・書き込み後、ヒートベッドの温度が表示される事を確認する。グラフィカルLCDの場合右上のヒートベッドの下に温度が、Repetier-HostソフトにはManualコントロールタブにヒートベッドが表示される様になる。
ホットエンド同様自動測定を行いKp、Ki、Kd値を求める。コマンドは
M303 E-1 S90 C8
S##は良く使う予定の温度を使う。ただし、90度等の高温に設定すると、かなり時間がかかる。自動測定は10分タイムアウトしてしまうので、途中でタイムアウト失敗した場合そのまま再度コマンドを叩くか、マニュアルでヒートベッドをあらかじめ80度ぐらいに温めておいてからコマンドを実行する。
Ki、Kp、Kd値が表示されたら、ファームのConfiguration.hの値を書き換える。define PIDTEMPBEDも追加しておく。
#define PIDTEMPBED #define BED_LIMIT_SWITCHING #define MAX_BED_POWER 255 #ifdef PIDTEMPBED #define DEFAULT_bedKp 704.07 #define DEFAULT_bedKi 137.74 #define DEFAULT_bedKd 899.71 #endif
BED_LIMIT_SWITCHINGは・・・試行錯誤していた時期があり入れているが、効果が良く分からない。
ヒートベッドを入れたことによりZ位置も変わっているので、Z位置も合わせて再度調整しておく。
これで設定は完了・・・なのだが、ホットエンドと異なりヒートベッドは広範囲を加熱するため、温度が上がるまでかなりの時間がかかる。冷房や扇風機で風が回っている環境だと、なかなか温度が上がらない。何か良い方法は無いかと調べていた所、下記記事を見つけた。
http://www.tweaking4all.com/3d-printing/free-heat-bed-booster/
単に、ヒートベッド加熱中は袋で覆って、造形開始したら袋を外すだけ。単純だが、非常に効果があるとの事。
袋で覆うのは面倒だし全体を覆うよりスポット的に保温した方が効果があるはず・・・と言う事で、ダイソーで購入した保温バッグとコルクボードと厚紙で保温カバーを作成。
造形時、あらかじめカバーをかぶせた状態でマニュアルである程度までヒートベッドを加熱しておいてから、カバーを外し造形開始すると時間短縮になる。
ヒートベッド通電時LEDが点灯するのだが、このベッドは裏側中央にLEDがあり見えないのでLEDは外してケーブルで見える位置まで延長した。
これで後はスライサーの設定でヒートベッド温度設定を追加するだけ。いざ、テスト!
・・・と思ったら、ヒートベッド加熱後ホットエンド加熱、そして造形開始する所でモーターが動かない。良く見るとXBoxのACアダプターのLEDが赤色に光っている。
このヒートベッドはどうやらかなりの電力を食う様で、XBoxの16.5Aの容量では足りなかった様だ。良く見ているとヒートベッド単体でも、オンオフ時に一瞬XBoxアダプターのLEDが一瞬赤に光ったり一瞬アダプター自体が死んでいる。
仕方ないので、高容量安定化電源を買い直す事に。20Aのものが安くあったが、20Aでも足りないと困るので33Aのものを購入。
http://item.rakuten.co.jp/ys-custom/201303250599/
土曜午後注文し日曜午前に到着。最近はAmazon以外でも便利になったものである。
N、LにACケーブルを接続、+V、-Vをプリンターに接続。一応テスターで測って12V丁度に調整した。ワニ口クリップのケーブルが付属していたので、DCジャックを取り付け。
安定化電源は無骨でイマイチかと思っていたが、悪くない。
造形開始してみると、今度は止まる事無く動作した。良かった良かった。試しにパズルを出力。
ヒートベッドが冷えてから取り外すと、伸縮のためか簡単にぽろっとガラス台座から綺麗に外れた。底面角の反りも無し。
ちなみにこのパズル3ピースで簡単そうに見えるが、これが意外と難しい・・・
http://www.thingiverse.com/thing:12098
ヒートベッドの過熱にかかる時間だが、室温26度から90度程度まで約15分だった。カバーをしていても扇風機の風が少しでもあたると加熱時間に影響が出るため、Tikoの様にカバーを付ける等の改良をいずれ考えようと思う。
おまけ
ヒートベッドの実際の温度測定用に2千円くらいの380度まで測定できる非接触式の温度計を購入したが、これがなかなか便利で楽しい・・・。
そこそこ正確で測定も速く遠くから測定出来て楽しい。無意味にあちこちの温度を測定してしまう。測定にはある程度の範囲が必要なのでホットエンドの測定には不向きだった。
サインソニック 非接触式 赤外線放射温度計 レーザーポインタ付 電池寿命提示 電池付き 【-32~+380℃計測可】
これで基本的な機能は実装できたが、改良はまだまだ続く。
次は電源周りは余裕を持って配線しようの巻。